会社が経営不振の場合に社長の自宅はどうなる?
第1 はじめに
会社が経営不振のため、法人破産等の手続きを検討せざるを得なくなった場合、会社の代表を務める社長個人の財産、特に自宅がどうなるのかは大きな関心事項となることが多いように思います。形式的には、社長と会社はまったく異なる人格ですので、法人が破産するからといって、必ずしも同時に社長も破産しなければならないわけではありません。
もっとも、会社の代表として、社長が会社の負っている債務を連帯保証しているケースが非常に多いことから、会社の経営が傾いてしまい、社長個人の財産だけでは会社の債務を返済することが事実上困難となった結果、社長も会社と同時に破産の申立てを行うことは少なくありません。そうすると、社長の名義となっている自宅があった場合、当然この自宅も社長の財産として扱われますので、破産によって自宅を失う可能性が出てきてしまうのです。
そこで、本記事では会社が経営不振の際に、社長個人の自宅を残す方法について2点確認したいと思います。
第2 小規模個人再生
会社の借入を担保するために自宅に抵当権が設定されているわけではなく、自宅には住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されているだけというケースであれば、住宅資金特別条項を定めた小規模個人再生手続を検討する価値があります。
そもそも小規模個人再生とは、個人商店主や小規模の事業を営んでおり、今後も継続的に収入を得られる見込みのある個人債務者をターゲットとした手続きです。サラリーマンなどの特定の会社に勤めている人には、似た手続きとして給与所得者等再生手続が用意されています。すべての債務を返済する必要がなくなる破産手続きと、利息分のカット等を行い元本の返済を目指す任意整理の間にある手続きとイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれません。
この手続きを利用すれば、債務を大幅に圧縮することが可能であり、減額後の金額をおおむね3年間(最長で5年間)で返済できるようスケジューリングを行っていくことになります。もっとも、小規模個人再生手続を利用するためには、債権総額が5000万円を超えていないことや、上述のとおり将来的にも反復継続して収入を得られる見込みがあることが要件として必要となってきますので、およそ今後の収益の目途がたたないようなケースではこの手続きを利用することができません。
そして、この再生手続の大きな特徴が、最初にあげた住宅資金特別条項の存在です。生活の本拠である自宅を手放さずに経済的に再起を図ることを可能にするという趣旨のもと、住宅ローンはこれまでと同様に払い続ける一方で、それ以外の債務については減額することにより、生活の立直しを目指す制度です。ちなみに、ここでは住宅ローンを従来どおり返済していく前提でお話していますが、住宅ローンの滞納により期限の利益を喪失してしまった者に対して、期限の利益を回復させて住宅ローンを一括返済しなくてもよい状況にする方法や、住宅ローンの支払期間の延期を認めてもらう方法など複数のバリエーションがありますので、事案に応じて最も適した解決策を模索していくことになります。
第3 リースバック
リースバックは、自宅を持ち続けたまま債務の整理を目指す方法ではなく、いったん自宅を第三者に対して適切な価格で売却した後、その不動産について賃貸借契約を締結し、賃借人として家賃を払って家に住み続ける方法です。
なお、社長自身も破産する場合、自宅を売却して取得した金銭は、破産手続きの中で債権者に対して適切に分配されることになりますので、勝手に費消することは許されません。また、市場価格に比して不当に安い価格で自宅を売却してしまうと、債権者を害することになるため、破産手続きの中で売買契約が不適切だったとして取り消されてしまう(否認)可能性がありますので注意が必要です。
第4 おわりに
ここまで、会社の経営が思うようにいかなくなった際に、社長個人の自宅を残すための方法について検討してきました。もっとも、これらの手続きには細かく要件が課されており、具体的な事案において、様々な手続きの中からどの手続きを選択することが適切なのかを見極める必要があります。そして、誤った手続きを選択してしまった場合のリスクも少なくありません。そのため、法人破産等の手続きを検討される際には、できる限り早い段階で、この分野に詳しい弁護士へ相談されることをおすすめしているところです。
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