法人破産における従業員の解雇

1  はじめに

法人破産をする場合、一般的には、破産申立てをする前に、従業員を解雇する必要があります。以下では、従業員を解雇するにあたり、どのような手続をすべきであるか、具体的に説明しています。

 

2  従業員の解雇

従業員を解雇する場合には、少なくとも30日前に解雇予告をしなければならず、これをしない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています(労働基準法20条1項)。
会社が破産申立てを行う場合、混乱を避けるために、破産申立ての準備に入るまでは、取引先や金融機関に対しては、通知を行わないことが通常であるため、破産申立ての直前に、従業員に解雇を告げ、解雇予告手当を支払わなければならないケースが多いといえます。
もっとも、破産手続開始後も、売掛金の回収や、在庫商品の売却のため、従業員の協力が必要となる場合もありますので、場合によっては、従業員を解雇する前に、破産申立てをする方が望ましいケースもあります

 

3  給与・退職金の支払

従業員に対しては、解雇日までの給与と、退職金規定がある場合には、退職金を支払う必要があります。
これらが支払えない場合には、「破産手続開始前3月間」の給与債権については、財団債権とされ(破産法149条1項)、破産手続の終了前に退職した際の退職金債権についても、「退職前3月間の給料の総額(破産手続開始前3月間の給料の総額より少ない場合には、破産手続開始前3月間の給料の総額)に相当する額」が財団債権とされるため(同条2項)、破産手続によることなく、破産財団(会社の不動産などの財産)の中から、優先的に弁済を受けることができます。
もっとも、破産財団によっては、上記の支払いが困難である場合には、労働者健康安全機構による立替払制度未払賃金の立替払事業| JOHAS(労働者健康安全機構))を利用できることについて、従業員に対して説明してあげるべきでしょう。

 

4  退職金共済手続

中小企業又は個人事業主の場合、退職金共済制度に加入していることがあり、従業員は、破産決定後、退職金共済機構に退職金請求をするか、新たに就職した会社において、退職金共済制度を継続することがあります。
会社としては、従業員に対して、退職金請求書を渡す必要があり、その後の手続は従業員各自で行うよう説明する必要があります。

 

5  交付が必要な書類

①離職票

従業員を解雇した場合、退職者が失業保険の給付手続をするときに必要となる、離職票を交付する必要があります。

②源泉徴収票

また、退職者が確定申告に添付書類として使用したり、次の就職先の会社で提出を求められる場合があるため、給与所得の源泉徴収票を作成して、退職者に交付する必要があります。顧問税理士や、顧問公認会計士がいる場合には、源泉徴収票の作成を依頼しましょう。

 

6  健康保険証の回収・切替

会社が社会保険に加入して、従業員やその家族が健康保険証を所持している場合、それらの健康保険証を全て回収する必要があります
従業員に対しては、国民健康保険に切り替えることや、他の企業に勤めている家族の扶養に入るなどの方法を説明する必要があります。

 

7  住民税についての手続

住民税の納付は、一般的に、会社が、従業員の給料から住民税の額を差し引いて納付するという特別徴収の方法が採られています。もっとも、会社が破産した場合には、特別徴収ができなくなるため、従業員各自で納付する必要があることを説明してあげる必要があります。
また、会社からは、従業員が居住している自治体に、給与所得者異動届出書を提出しなければなりません。

 

8  まとめ

以上のとおり、法人破産において、従業員を解雇するために必要となる手続は多岐にわたっており、解雇のタイミングについても、従業員の混乱を招かないよう、慎重な判断が必要となります。
法人破産を検討されている経営者の方は、是非弁護士にご相談ください。

 

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