弁護士が解説!病院が倒産する場合の問題点と手続きのポイント
人生で一度も病院に行ったことがないといった人はいないでしょう。病院,診療所は社会的インフラであり,その分,残念ながら破産をせざるを得ない状況となったとき,その影響は極めて大きいものとなります。
本記事では,病院や診療所が破産手続をする場合の特徴や通常の会社の破産手続きとの違いについて説明いたします。
目次
誰が破産をするのか?
そもそも,「病院」は法的な主体ではありません。
医療法第1条の5によると
病院とは,医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行なう場所で,20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいいます。
診療所とは,19人以下の患者を入院させるための施設を有するものや入院施設がないものをいいます。
このように,病院とは,「場所」の名前です。
そのため,いわゆる「病院」の倒産とは,病院の運営者の破産のことを言います。
具体的に言うと
個人が運営する病院の場合は,当該個人が
医療法人が運営する病院の場合は,当該医療法人が破産手続きを行うことになります。
病院の破産手続きの特徴,留意点
1 患者をどうするか
病院・診療所の破産申立の場合に注意しなければならないのは,破産手続そのものより,入院患者や通院患者の生命,身体の保護です。
病院経営者や代理人弁護士が,裁判所,行政機関及び地域の医師会等と協議し,患者に対しての影響を考慮した対応をとっていかなければなりません。
具体的には,入院患者や通院患者の転院・転医の状況の把握,受け入れ先の確保,転院に要する期間や費用等の把握が挙げられます。
特に,現在入院患者がいるけれども,もう診療を続けることができず患者の生命身体に危険が及ぶ可能性がある場合は,はやめに都道府県の環境保健部等の機関,所轄の保健所,医師会と協議する必要があります。
2 従業員について
破産手続きの開始決定がなされると,破産管財人が選任されます。
通常の会社の破産手続きの場合は,この管財人が,破産会社の財産の管理等を行います。
しかし,病院・診療所の破産は,その業種の特殊性から,破産管財人だけでは管財業務を行なうことが困難です。そのため,破産申立の前に,看護師や事務員代表各1名ほどが管財業務の補助者として選定される場合があります。ですので,補助者を確保し,その人については,雇用を継続する必要があります。
3 診療録等の保管場所
医師や病院・診療所の管理者には,診療録を5年間保存する義務が医師法で定められています。また,病院日誌・診療日誌・処方箋・手術記録・看護記録・検査所見記録・エックス線写真などは2年間の保存義務が医療法で定められています。
患者に対して診療ができない破産者が保管するよりも,現実に診察を受ける可能性が高い医療機関に引き継いでもらった方が患者のためになります。このような観点から保管場所をどうするかについて検討する必要があります。
具体的には,病院の施設の買受人がそのまま当該施設を病院として利用する場合は,その病院で保管してもらう方法があり得ます。
破産した場合であっても,保管義務は継続するので,引き取り先が見つからない場合は,破産財団から費用を出して診療記録等を保管することになります。
4 廃止届の提出時期
病院施設の買受人に対する病院開設許可や病院数増加許可がされる前に,破産をする病院の廃止届を提出すると,その病院のある地域の基準病床数に空枠が生じます。
そうなった場合,新たな病院開設許可や病床数増加許可がなされてしまう可能性があり,買受人に対する病院開設許可や病床数増加許可がされない可能性があります。ですので,廃止届を出すタイミングは十分検討する必要があります。
まとめ
上記のように,病院の破産手続きは,いろいろなところに多大な影響を及ぼします。そのため,破産という最終的な手段を講じる前に,何とか他の手段で再生できないか弁護士に相談してみてください。