製造業の破産・再生
1 はじめに
日本国内の企業のうち,中小企業の占める割合は99パーセントであり,この中小企業が日本の雇用の7割を担っています。昨今のコロナの影響により,観光業・飲食業等が多大なダメージを受けていますが,感染拡大がさらに長期化するとその他の業種にも影響が広がっていくでしょう。経営悪化により,事業の破産・再生に至るケースは増えていくことかと思われます。いざ,破産・再生といっても,業種により特徴があり,気を付けるべき点は異なります。
例えば製造業を営む企業が破産・再生する場合はどのような特徴があるか見てみましょう。
2 製造業の破産
製造業は,現在機械化・AIの導入が進んでいますが,業種の特徴として従業員が多い傾向にあります。破産の際,雇用している従業員を解雇することになりますが,その際に解雇予告手当等の賃金を支払う必要があります。当然,従業員数の規模に応じて,支払う必要のある賃金額も膨らみます。
この場合,従業員への賃金の支払いが出来ないと,残る未払賃金については未払賃金立替払制度の利用が考えられます。未払賃金立替払制度とは,独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の一定の範囲について立替払いしてくれる制度です。
立替払制度の利用にあたっては,元従業員の退職日での年齢を確認する必要がありますので,従業員台帳といった生年月日が分かるような資料が必要です。また,立替払いの対象となるのは,破産申立日の6か月前から2年の間に退職した人です。破産の申立てが遅くなり,退職後6か月以上経過した後の申立てとなると,立替払いを受けることが出来ません。破産申立ては迅速に行う必要があります。
したがって,迅速に破産の申立を行えるように資料散逸にはご注意ください。
3 製造業の民事再生
民事再生による会社再建を目指す場合,これまで取引のあった顧客との関係が重要になります。顧客が,民事再生手続の利用を知ると今後の取引が安定的に行われるのか,企業の安定性を非常に危ぶみます。最悪の場合,安定的な供給を見込めないとして,これまでの取引を打ち切ってくる可能性があります。
取引先が民事再生について誤った認識を持ってしまうと,民事再生後の取引を打ち切られ,再生計画にも支障を生じます。民事再生手続が開始しても,取引先と現金での取引を行うことで,安定的な取引を行うことが可能です。民事再生の手続が完了すると,債務は大幅に圧縮されますので,以前よりも会社の財務は健全化されることなります。
取引先には,取引の安全性について誤解を生じないように,民事再生申立後に,きっちりと今後の取引にも支障ないことを説明して,会社再建への協力を得る必要があるでしょう。