破産と年金・生活保護
目次
1 はじめに
会社や個人が破産する場合、破産手続開始時に有する財産は、一定のルールに基づいて債権者に分配されるのが原則であるため、破産するにあたっては、生活への影響を考えておく必要があります。
以下では、破産による年金、生活保護受給への影響等について、解説していきます。
2 破産時に有する財産の扱い
(1) 会社の場合
会社が破産手続開始時に有する財産は、すべて破産管財人の管理下に置かれ、最終的には換価処分されて債権者に分配されるのが原則とされています。
(2) 個人の場合
個人の場合であっても、破産手続開始時に財産を有する場合は、破産管財人により債権者に分配されるのが原則です。
もっとも、個人については、生活保障の観点から、自由財産制度が設けられており、一定の財産(99万円以下の現金と、民事執行法上の差押禁止財産)は、本来的自由財産として、管財人による管理・処分の対象とせず、破産者の元に残すことが認められています。
また、預貯金や保険解約返戻金、自動車等は本来的自由財産ではありませんが、自由財産の拡張と呼ばれる制度が設けられているため、本来的自由財産との合計額が99万円以下であれば、原則として破産者の元に残すことが認められます。
3 破産と年金
(1) 会社の破産
会社が破産しても、会社が掛けていた厚生年金に影響はありません。仮に、会社が従業員から天引きした厚生年金保険料を滞納したまま破産した場合でも、従業員が受給する厚生年金の額が減少することはないと考えられています。
(2) 個人の破産
公的年金(国民年金、厚生年金)は、自由財産であり、自己破産をしても受給できます。
これに対し、個人年金(保険会社等と契約している年金)については、本来的自由財産ではないため、原則として破産管財人による換価・処分の対象となり、解約返戻金の見込額が一定額以上(具体的な金額は裁判所により異なります。)であれば、解約されてしまうことになります。
既に口座に振り込まれた年金についても、預貯金債権として扱われますので、本来的自由財産ではなく、同様に破産管財人の管理下におかれるのが原則です。
もっとも、自由財産との合計額が99万円以下であれば、上述した自由財産拡張の制度により、破産者の手元に残す余地があります。
なお、自己破産をしたとしても、国民年金保険料その他の公租公課については支払義務を免れることができません(非免責債権)ので、公租公課の滞納を理由に自己破産をすることはできません。
4 破産と生活保護
(1)破産の生活保護との関係
生活保護受給中に自己破産をすることが禁止されているわけではなく、かつ自己破産をすることで生活保護を受給できなくなるわけでもありません。
また、生活保護受給中に新たな借入れをすることも許されていません。
(2) 費用の免除
自己破産の申立てをするには、裁判所に対して費用を予納する必要があり、手続を弁護士等に依頼する場合には、その費用も必要となります。
この点、生活保護受給者については、法テラスがこれらの費用を立て替える制度が設けられています。
(3) 手続の順序
保護費から借金を返済することが認められないこともあり、自治体からは、自己破産によって借金を無くした上で生活保護を受給するよう指導される場合があります。
もっとも、自己破産を先行させなければ生活保護の受給が許されないわけではなく、自己破産の費用を捻出できない場合には、生活保護を受給した上で自己破産の手続をとることもありえます。
5 最後に
破産の手続は複雑であり、専門的な知識がなければ適切に進めることが難しい場合も多いといえます。
もし、「破産を考えているが、どのようにすればよいか分からない」「破産後の生活がどうなるのか不安」といったことでお困りなら、債務整理に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。